今思えばあれは通常の下山道ではなかったのだと思う。 歩いて降りているひとが誰もいないうえに大きな岩や、小さな石が入り混じり まったく整備されていない道なのだ。 というか道じゃない…坂の角度もかなり急にみえる…
ここでU先輩の講義がはじまった。 まず、サドルにお尻はつけず中腰になり 両足でサドルをはさむようにして自転車をコントロールする。 ブレーキは左手のみ つまり後輪だけを使いケツを滑らせながらスピードをコントロールする…以上 説明は30秒で終了
S:「……やっぱり担いでおりますか?…」 そのことばは受け付けず
U:「行くぞ」
Uが迷わず先陣をきる やむなくSがそれに続く そして最後にHがスタート。3人とも何度か転びながらも転べば転ぶほど、闘争本能に火がつくのはなぜだろう… そうこうしているうちにしだいに自分でも上手くなってくるのがわかるから不思議だ。
何事もそうだが、努力を強いられるときは苦しいが成果が見え始めると楽しくなる。 途中からは早く下ってしまうのが、勿体ないくらい面白い…が一人相変わらず転んでばかりいる 【男】 がいる…Hである。
上手くできない自分にも腹が立つのだろうが、追い打ちをかけるように先頭をいくUが待つたびに怒る。
U:「なんでこんなことくらいが出来ないんだ!!」
H:「スキーは得意でスキーは後ろ体重でこれは前体重だから…ブツブツ」
U:「…【男】なら能書きはいいからちゃんとついてこい!!!もう、待たないからな!」
S:(ニヤケ)
その後はそれぞれに楽しみながら? 自転車での下山を満喫した。
下山も佳境に入り、道なき道から少し開けたところまで来た。両サイドには坂に沿って杉の木だったか大きな気が立ち並ぶ。道幅も広く小さな石が敷き詰められたような景色…
S:(あ〜終わりか〜) ここまで自転車をコントロールしながら来たが、もうあとは、下り坂の勢いにまかせていくだけでいい…その時
前を行くU先輩に異変が起こる。 猛スピードでこの道を走っていくU先輩のバランスが左右にブレたかと思ったその瞬間、一気に体勢を崩しもんどり打って転がっていく…かなりのスピードのため巨体を制御することもできず勢いにまかせ 杉の木の斜面に消えていってしまったのだ!
S:(…首折れたか?…下半身不随?…) 良からぬ想像が脳裏をかすめる。
S自身もかなりのスピードであったためすぐには止まれず事故現場?を通り過ぎ少々行ったところで停止、今度は歩いて現場に向かう。 しかし そこには無残にも自転車だけが倒れているではないか…
S:(マジでヤバイか?救助呼んだ方がいいか?)そんな事を考えていると…
杉の木の陰から這い上がってくる影…
S:「先輩!大丈夫ですか!?」
U:「死んだと思ったよ。」 空手・柔道・レスリング・杖道・居合・合気道とさすがは武道百般のU先輩である。その後は転んだ姿を思い出して二人で大笑いしながら下りた。 そして、幾ほどもいかずゴールにたどり着く。
かなり遅れてHも到着 色々あったが終わってみると、ひどく充実した二日間であった。自転車を買いにいったのがつい昨日のこととは思えないほど… そしてまたいつか…の思いを背に3人は富士山を後にした。
〜完〜
お知らせは次回 トレーナーS